院内だより

人間と猿との大きな違い… その一つは下アゴの大きさ

東京では梅の花が咲き出す頃となりました。本格的な春の訪れが待ち遠しい今日この頃です。
 さて、今回は人間と猿の違いの一つについてお話したいと思います。皆さんご存知のように、人間ももともとは猿類でしたが、進化の過程で二足歩行をするようになり、呼吸がしやすいように、上アゴに対して下アゴが前下方に出てchin(またはオトガイ)がより際立ってきました。下の図は、Donald Enlow先生の論文「A Comparative Study of Facial Growth in Homo and Macaca」から抜粋したものですが、人間と猿の骨格の違いがよくおわかりいただけると思います。
Enlow.jpg
最近よく耳にするようになった「睡眠時無呼吸症候群」は、下アゴの発達がよくないと症候群になるリスクが高いと言われており、成長期に正常な下アゴの成長を獲得することは大変重要です。子供のころから歯ぎしり、食いしばり、外傷、そして不安定な咬み合せなどによってアゴ関節の円板がずれている場合、下アゴの成長に影響を及ぼす可能性があります。円板のずれの初期段階でスプリント治療を行えば、円板のずれの重症化を防ぐだけでなく、下アゴの成長を助ける効果もあることがわかってきました。アゴ関節で音がし始めたり、違和感があると円板がずれている可能性が高いので、少しでも疑わしい症状があれば早めに受診していただきたいと思います。当院の153名の小児から思春期でのデータから、6~9才のグループでは円板のずれは初期段階が多く、10~12才そして13~15才のグループでは年齢の増加とともに進行度が大きくなることがわかりました。9才というのは小学3年生でアゴ関節の問題はほとんど注目されていませんでした。
また、Enlow先生によれば、この図の濃いグレーの部分は成長過程で吸収されていく部分で、人間は猿に比べて歯を支える歯槽骨部分の多くが吸収域であることがわかります。最近矯正治療において、歯が入りきらないから拡大するという治療がよく行われているようですが、拡大した部分は年を重ねるごとに吸収されていきます。その結果、将来歯根が露出し、知覚過敏を発症するリスクは格段に高くなりますし、その位置が安定しないことも、ワシントン大学のLittle先生の研究より明らかになっています。
 もちろん、歯根露出のリスク以外にも、アゴを拡大することは咬み合せがとても不安定になり、アゴ関節に負担がかかります。正しい知識が広まり、「歯が入りきらないから拡大してしまおう!」という治療法が安易に行われないことを願うばかりです。

2015年02月14日 11:24

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